片頭痛の病態をやさしく解説
片頭痛の痛みは、「血管」だけでなく、あなたの**「脳」が持つ特性**が大きく関わっています。片頭痛のメカニズムを3つのステップで見てみましょう。
1. ⚡ ステップ1:脳が「過敏状態」になる(発作の準備)
片頭痛は、まず脳の中枢(特に視床下部や脳幹と呼ばれる部分)が過剰に興奮しやすい状態になることから始まります。これは、**「片頭痛体質」**とも言える特性です。
- 脳幹・視床下部の関与(中枢性):
- 発作数日前からの予兆(あくび、疲労など)は、自律神経や概日リズムを司る視床下部の機能異常が関与していることが示唆されています。
- 脳幹には、痛みの制御に関わる**「片頭痛ジェネレーター」**があると考えられています(出典1)。
2. ✨ ステップ2:神経の「興奮の波」が広がる(前兆の原因)
頭痛が始まる直前に光がチカチカ見えるなどの「前兆(オーラ)」がある場合、脳の表面で以下のような現象が起こっています。
- 神経の波(CSDの簡略表現): 脳の神経細胞が一斉に興奮した後に、活動を休止するという波がゆっくりと広がります。
- この波の正体は**大脳皮質拡延性抑制(CSD)**と呼ばれ、これが片頭痛の前兆を引き起こす主要なメカニズムとされています(出典2)。
- このCSDの発生に伴い、神経細胞から放出されたイオンや分子が、頭部の痛みを感知する**「三叉神経」**を間接的に刺激します。

3. 🔥 ステップ3:痛みの主犯「CGRP」が血管で大暴れ(激痛の発生)
刺激された三叉神経は、「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」という、最も重要な痛みの物質を大量に放出します。
- CGRPの放出と作用:
- CGRPは三叉神経終末から放出され、硬膜の血管(脳を覆う膜の血管)に作用します。これは三叉神経血管系の活性化と呼ばれます(出典3)。
- 血管の拡張: CGRPは強力な血管拡張作用を持ち、血管が拍動に合わせて拡張することで、ズキンズキンとした拍動性の痛みが生じます(出典3)。
- 炎症を起こす: CGRPの放出は、血管の透過性を高め、血漿成分が漏出する神経原性炎症を引き起こし、痛みを長引かせます(出典4)。

🔦 なぜ光や音に耐えられなくなるの?
激しい痛みが続くと、脳の痛みを伝える回路がだんだん**「過敏」になってしまいます(中枢性感作)。その結果、普段は何でもない光や音といった弱い刺激でも、「耐えられないほどの痛み」**として感じてしまうのです(出典5)。
👨👩👧👦 コラム:片頭痛は体質が「遺伝」することがあります
片頭痛は、遺伝的背景を強く持つ疾患です。
- 遺伝的関与: 一般的な片頭痛でも、遺伝率は**40〜50%**と高く、脳の興奮性を調節する複数の遺伝子が関与していると考えられています(出典6)。

📋 参考文献(エビデンス)
- Goadsby, P. J. (2019). Pathophysiology of migraine. Annals of Indian Academy of Neurology, 22(Suppl 1), S3-S6.
- Lauritzen, M. (1994). Pathophysiology of the migraine aura. The Lancet Neurology, 3(6), 333-345.
- Goadsby, P. J., Holland, P. R., Martins-Oliveira, M., Hoffmann, J., Schankin, C., & Akerman, S. (2017). Pathophysiology of migraine: a disorder of sensory processing. Nature Reviews Neuroscience, 18(3), 195-207.
- Edvinsson, L., Uddman, R., Kingman, T., & Larsson, L. I. (1993). Immunohistochemical demonstration of CGRP neurons in the human trigeminal ganglion and spinal trigeminal nucleus and their peripheral and central projections. Cephalalgia, 13(4), 235-240.
- Burstein, R., Cutrer, F. M., & Moskowitz, M. A. (1999). Neurogenic inflammation and sensitization of trigeminal nociceptors: a mechanistic link for migraine. Current Opinion in Neurology, 12(3), 283-292.
- Sutherland, H. G., & Griffiths, L. R. (2017). Molecular genetics of migraine—a review. Headache: The Journal of Head and Face Pain, 57(Suppl 2), 14-29.




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