~ドパミンを上手に補い、チームで支える治療~
こんにちは。 前回は、パーキンソン病治療の「3本柱」についてお話ししました。今回は、その中心となる**「薬物療法(お薬)」**について詳しく解説します。
パーキンソン病の薬は、単に「症状を止める」だけでなく、**「脳内のドパミン濃度を一定に保つ」**という重要な役割を持っています。 今日は、主役となるお薬と、それを支える頼もしい仲間たち(補助薬)について、医学的な根拠に基づいてお話しします。
1. 治療の主役となる2種類のお薬
まずは、治療のベースとなる「ドパミン(ガソリン)」そのものに関わるお薬です。
① L-ドパ(レボドパ)
【役割:ガソリンそのもの】 脳の中に入ってドパミンに変わる、最も基本かつ強力なお薬です。 【エビデンス】
ガイドラインでも**「最も症状改善効果が高い」**とされています。早期から適切に使うことで、生活の質(QOL)を長く維持できることが分かっています。
② ドパミンアゴニスト
【役割:ガソリンの代用品】 ドパミンのふりをして、神経のスイッチを押すお薬です。効果が長く続くのが特徴で、L-ドパと組み合わせて使うことも多いです。
2. 主役を助ける「名脇役」たち(補助薬)
治療が進むと、L-ドパだけでは効果が長続きしなくなることがあります。そんな時に活躍するのが、以下の「助っ人」たちです。これらを上手く組み合わせることで、1日中動ける時間を増やします。
③ ドパミンを「長持ちさせる」お薬
(MAO-B阻害薬・COMT阻害薬) せっかく補充したドパミンも、時間が経つと体内で分解されてしまいます。これらのお薬は、分解酵素の働きをブロックします。
- イメージはお風呂の栓: L-ドパが「お湯を足す」ことなら、これらのお薬は**「お風呂の栓をして、お湯が抜けないようにする」**役割です。 結果として、ドパミンが脳内に留まる時間が長くなり、薬の効き目が安定します。
④ 脳の「ブレーキを外す」新しいお薬
(イストラデフィリン) これはドパミン系とは全く違う働きをする、日本で生まれた新しいタイプのお薬です。
- アクセルとブレーキ: パーキンソン病は、ドパミン不足で「アクセルが踏めない」だけでなく、神経の「ブレーキがかかりすぎている」状態でもあります。 このお薬は、過剰にかかったブレーキを緩めることで、体を動きやすくします。ドパミン製剤特有の副作用が出にくいという特徴もあります。
3. なぜ「時間を守って」飲まないといけないの?
これほど多くの種類のお薬を使うのには、理由があります。それは**「CDS(持続的ドパミン刺激)」**という考え方に基づいています。
【エビデンス(CDS理論)】
脳内のドパミン濃度が「効きすぎて高い」「切れて低い」と波打つ状態は、脳の神経に負担をかけ、病気の進行や副作用(ジスキネジアなど)のリスクを高める可能性があります。 常に一定の濃度で、脳を優しく刺激し続けることが、将来にわたって機能を守るために最も重要です。
主役の薬に、脇役の薬(分解を抑える薬など)を組み合わせるのは、この**「波をなくして、平らにする」ためなのです。 だからこそ、「決まった時間に飲む」**ことが、これらのお薬のチームワークを最大限に発揮させるカギとなります。

4. 薬の調整はオーダーメイド
「薬が増えて怖い」と思われるかもしれませんが、心配しないでください。 医師は、あなたの今の状態(波の大きさ)を見て、パズルのように最適なお薬を組み合わせています。
- 「薬が切れるのが早くなった(ウェアリング・オフ)」
- 「体が勝手に動いてしまう(ジスキネジア)」
こうした症状があれば、L-ドパの量を調節したり、MAO-B阻害薬やイストラデフィリンなどを追加・変更したりすることで改善できます。 違和感があれば、我慢せずに必ず主治医に教えてください。それが「次の調整」へのヒントになります。
今日のまとめ
- チーム医療: 薬はL-ドパだけでなく、分解を防ぐ薬やブレーキを外す薬など、チームで効かせている。
- 目的: 複数の薬を組み合わせるのは、ドパミンの濃度を一定に保ち(CDS)、脳を守るため。
- 行動: 飲み忘れや自己中断は、チームの連携を乱してしまう。「時間を守る」ことが最大の治療効果を生む。
次回は、このお薬の効果をさらに高めるための**「リハビリテーション(運動療法)」**についてお話しします。




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