こんにちは。今日は、アルツハイマー型とは少し違う特徴を持つ**「レビー小体型認知症(DLB)」**についてお話しします。

この病気は、ご本人もご家族も「なぜこんなことが起きるの?」と戸惑うことが多い病気です。でも、その正体を知ることで、少しだけ心に余裕を持って向き合えるようになります。


1. なぜ起きるの?(原因)

脳の中に「レビー小体」という特殊なタンパク質のゴミが溜まってしまうことが原因です。

アルツハイマー型が「脳の細胞が消えていく」病気だとすれば、レビー小体型は**「細胞は元気なのに、脳のネットワーク(連絡網)がうまく繋がらない」**病気です。 特に脳の「スイッチ」を安定させるアセチルコリンという物質が足りなくなるため、意識や動きが不安定になります。

2. 最大の特徴は「体調や意識の波」

この病気の最も大きな特徴は、まるで寄せたり引いたりする波のように、症状が刻一刻と変わることです。

  • 頭の波: さっきまでしっかり話していたのに、急にぼーっとして反応がなくなる。
  • 眠りの波: 夜しっかり寝ても、昼間に強烈な眠気が襲ってくる。
  • 体の波: スムーズに歩ける時もあれば、急に足がすくんで動けなくなることもある。
  • 自律神経の波: 立ち上がった時にフラッとしたり、ひどい便秘になったりする。

【エビデンス】 Taylorらの研究(2016)によれば、この「変動」は脳の覚醒や注意を司るネットワークの不安定さが原因とされています。 Ref: Taylor JP, et al. Lancet Neurol. 2016

3. どんな検査をするの?

「認知症かな?」と思ったら、脳の働きを詳しく調べる検査を行います。

  • DaT(ダット)スキャン: 脳の中の「ドパミン」という動きを司る物質が足りているかを見ます。
  • MIBG(エムアイビージー)心筋シンチ: 心臓の神経を調べます。レビー小体型ではここが弱くなることが多いため、診断の大きな手がかりになります。
  • MRI: 脳の形を診ます。アルツハイマー型と違い、記憶の要である「海馬(かいば)」が比較的きれいに残っているのが特徴です。

4. 診断:パズルを完成させるように

医師は、ご家族からのお話(幻視はあるか、寝ている間に暴れていないかなど)と、上記の検査結果を組み合わせて、「レビー小体型」かどうかを診断します。

5. 治療:まずは脳のスイッチを安定させる

根本的に治すお薬はまだありませんが、**「アセチルコリン」を補うお薬(ドネペジルなど)**を使うことで、頭のぼーっとした感じや、幻視を和らげることができます。

6. 【重要】お薬への「過敏反応」に気をつけて!

ここが一番知っておいていただきたいポイントです。レビー小体型の方は、お薬に対して非常にデリケートです。

  • 市販の睡眠薬や風邪薬
  • 強い安定剤(抗精神病薬)

これらを使うと、急に意識が朦朧としたり、体が全く動かなくなったりすることがあります。「お薬を飲んでから様子が変だ」と感じたら、すぐに主治医に相談してください。

7. 社会的なサポート:一人で抱え込まないで

レビー小体型認知症は、症状の「波」があるため、介護する方の疲れが出やすい病気です。

「本人のわがまま」ではなく「脳のスイッチの故障」だと理解すること、そしてケアマネジャーさんやデイサービスなど、「社会の力」を早めに借りることが、穏やかな生活を続けるために何より大切です。


💡 医学的エビデンス(信頼できる情報源)

今回の内容は、以下の世界的な診断基準と研究に基づいています。

  1. McKeithらの第4次合意報告書 (2017): レビー小体型認知症の国際的な診断基準です。
  2. Taylor JP, et al. (2016): レビー小体型認知症の「変動」の仕組みを詳しく解明した論文です。

最後に

レビー小体型認知症は、周囲の理解があれば、ご本人の「良い波」の時間を増やすことができます。 「今の波はどっちかな?」と、少し離れたところから見守るような気持ちで、私たちと一緒に歩んでいきましょう。

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