毎日の診療の中で、患者さんから「頭のこの部分だけが、コインくらいの大きさでピンポイントに痛いんです」と、指をさしてご相談を受けることがあります。片頭痛や緊張型頭痛とは少し違う、この不思議な局所的な痛み。実はこれ、「貨幣状頭痛(かへいじょうずつう)」と呼ばれる、比較的珍しいタイプの頭痛かもしれません。

今回は、この貨幣状頭痛について、最新の医学的な知見を交えながら、どのような症状で、どう治療していくのかを詳しく解説していきます。

  1. 貨幣状頭痛(Nummular Headache)とは?
    貨幣状頭痛は、2002年に初めて医学的に報告され、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)でも正式な「一次性頭痛(他の病気が原因ではない、頭痛そのものが病気であるもの)」として認められている疾患です。

英語では「Nummular(コイン状の)Headache」と呼ばれ、その名の通り、頭の表面の 1〜6cm程度の円形または楕円形の決まった範囲だけ に痛みが起こるのが最大の特徴です。

  1. 特徴的な症状について
    片頭痛などと区別するための重要なサインとして、以下のような特徴があります。

痛む場所が変わらない: 痛みの範囲は常に一定で、形や大きさが変動したり、右から左へ移動したりすることはありません。頭頂部(頭のてっぺん)、側頭部、後頭部などによく見られます。

痛みの強さと持続性: 痛みは「軽度〜中等度」であることが多く、じわじわと持続的に痛む場合もあれば、発作的にズキッと痛みが強くなることもあります。

随伴症状がない: 片頭痛のように、吐き気を伴ったり、光や音に過敏になったりすることはありません。

皮膚の違和感: 痛む部分の皮膚を触ると、ピリピリとした違和感(アロディニア)があったり、逆に感覚が鈍くなったりすることが頻繁に見られます。

疫学的には女性にやや多く(男女比は約1:1.5)、40代から50代にかけて発症しやすい傾向があります。

  1. なぜ起こるのか?(発症メカニズムと背景)
    「なぜ頭の一部分だけが痛くなるの?」と不安に思われるかもしれませんが、現在の研究では、脳の中枢(脳そのもの)の異常ではなく、頭皮を通る 末梢神経(三叉神経や大後頭神経などの末端)の異常な興奮や神経痛の一種 であると考えられています。

痛む部分を指で圧迫したり刺激したりすると痛みが再現されることからも、頭皮の表面に近い神経のトラブルであることが分かります。また、精神的なストレスやうつ病などの精神疾患とは関連がないことが証明されていますので、「気のせい」や「ストレスのせい」ではありません。どうぞご安心ください。

  1. 診断と重要な除外疾患
    貨幣状頭痛の診断は、基本的には患者さんからの詳しい問診(痛みの範囲や性質の確認)によって行われます。

しかし、頭痛専門医として最も注意を払うのは「二次性頭痛」の除外です。頭皮の皮膚疾患、帯状疱疹、あるいは頭骨や脳内の別の病気(腫瘍など)が隠れていないかを確認するため、必要に応じてCTやMRIなどの画像検査を行うことが非常に重要になります。

  1. 科学的根拠に基づいた治療アプローチ
    痛みが軽く、生活に支障がない場合は、「これは良性の頭痛ですよ」と診断がつくこと自体で安心され、経過観察となることも多いです。しかし、痛みが強く日常生活に影響が出る場合は、医学的エビデンスに基づき以下のような治療を行います。

一般的な鎮痛薬(NSAIDs等): 発作的に痛みが強くなる急性期には、一般的な痛み止めが有効なケースが約6割あると報告されています。

抗てんかん薬(ガバペンチンなど): 痛みが続く場合の予防薬として、第一選択薬として推奨されます。神経の過剰な興奮を鎮める働きがありますが、眠気やふらつきなどの副作用が出ないよう、専門医が慎重に量を調整します。

ボツリヌス療法(ボトックス注射): 飲み薬が効きにくい、または副作用で続けられない場合の非常に有効な選択肢です。痛む部分の皮下に直接注射をすることで、神経の末端から痛みの物質(CGRPなど)が放出されるのをブロックします。近年の海外の臨床研究でも、最も効果が高く、かつ副作用が少ない治療法として位置づけられています。

おわりに
「頭のほんの一部だけが痛い」という症状は、ご自身では原因が分からず「脳の病気なのでは?」と不安を抱えやすいものです。しかし、正しく診断をつけることで、適切な治療やコントロールが十分に可能です。

もし、当てはまるような症状でお悩みの場合は、決して一人で我慢せず、当クリニックまでお気軽にご相談くださいね。

【参考文献・出典】
医学的な背景や治療エビデンスについては、以下の論文やガイドラインを参照しています。

Grosberg BM, et al. “Nummular headache.” Current Pain and Headache Reports. (2007)
DOI: 10.1007/s11916-007-0209-1 / PMID: 17686396
(貨幣状頭痛の臨床的特徴や診断基準、感覚異常に関する基礎的な報告)

Bari S, et al. “Characteristics and treatment effectiveness of the nummular headache: a systematic review and analysis of 110 cases.” BMJ Open. (2020)
DOI: 10.1136/bmjopen-2019-030953 / PMID: 32165389
(110症例のシステマティックレビュー。NSAIDsや予防薬の治療効果の分析)

Guerrero-Peral AL, et al. “Treatment of Primary Nummular Headache: A Series of 183 Patients from the NUMITOR Study.” Journal of Clinical Medicine. (2022)
DOI: 10.3390/jcm12010189 / PMID: 36614917
(183名の患者を対象とした観察研究。ガバペンチンおよびボツリヌス療法の高い有効性と忍容性を実証)

Patel P, Eissa M. “Nummular Headache.” StatPearls [Internet]. (2023)
Link: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK540991/
(疫学、病態生理、および末梢神経由来であることの包括的レビュー)

Leave a Reply

Trending

Discover more from 東部クリニック        脳神経内科

Subscribe now to keep reading and get access to the full archive.

Continue reading