こんにちは。毎日診察をしていると、患者さんから「血液をサラサラにするお薬を飲んでいます」とお聞きすることがよくあります。
お薬手帳を拝見すると、実はこの「サラサラ薬」には大きく分けて2つの種類があるのをご存知でしょうか? それが「抗血小板薬(こうけっしょうばんやく)」と「抗凝固薬(こうぎょうこやく)」です。
今日は、この2つのお薬がどう違うのか、なぜ使い分ける必要があるのかについて、詳しく解説してみたいと思います。
そもそも「血が固まる」ってどういうこと?
血をサラサラにする薬の違いを知るためには、まず「血が固まる仕組み」を知る必要があります。私たちの体は、出血したときに血を止めるために「2段階の防御システム」を持っています。
- 一次止血(血小板の働き): 血管に傷がつくと、まずは血液中の「血小板(けっしょうばん)」という成分がサッと集まってきて、傷口にフタをします。これを「白血栓」と呼びます。例えるなら、道路の穴に「レンガ」を急いで並べて応急処置をするようなイメージです。
- 二次止血(凝固因子の働き): レンガを並べただけでは隙間から血が漏れてしまうので、次に「凝固因子(ぎょうこいんし)」というタンパク質が働いて、フィブリンという強固な網目を重ねます。これでしっかりと血が止まります(赤血栓)。例えるなら、レンガの隙間に**「セメント」**を流し込んでカチカチに固めるイメージです。
血が止まるのは大切なことですが、血管の中で不必要にこの固まり(血栓)ができてしまうと、血管が詰まって病気を引き起こします。これを防ぐのが「サラサラ薬」の役割ですが、「レンガ(血小板)が集まるのを防ぐ」か、「セメント(凝固因子)が固まるのを防ぐ」かで、お薬の種類が変わるのです。
1. 「抗血小板薬」——流れの速い川(動脈)のトラブルを防ぐ
抗血小板薬は、先ほどの「レンガ(血小板)」が集まりすぎるのを防ぐお薬です。
- どんな時に使われる? 主に「動脈(心臓から全身へ血液を送る、流れの速い太い血管)」での血栓を防ぐために使われます。 動脈硬化が進んで血管の内側がプラーク(脂肪のコブ)で狭くなり、それが破裂すると、体は「傷ができた!」と勘違いして急いで血小板を集めてしまいます。川の流れが速い動脈では、レンガ(血小板)がどんどん積み重なって血管を塞いでしまうのです。
- 代表的な病気: 脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞)、狭心症、心筋梗塞など
- 代表的なお薬: バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)など
2. 「抗凝固薬」——流れの淀んだ池(静脈や心臓)のトラブルを防ぐ
一方の抗凝固薬は、先ほどの「セメント(凝固因子)」が固まるのを防ぐお薬です。
- どんな時に使われる? 主に「静脈(全身から心臓へ戻る血管)」や「心臓の中」など、血液の流れが遅く、淀んでしまう場所での血栓を防ぐために使われます。 例えば「心房細動(しんぼうさいどう)」という不整脈があると、心臓がブルブルと震えるだけでうまく血液を送り出せず、心臓の中で血液が淀んでしまいます。水たまりで泥がドロドロと固まるように、血液が淀むとセメント(凝固因子)が働きやすくなり、ゼリー状の大きな血栓ができてしまうのです。
- 代表的な病気: 心原性脳塞栓症(心臓でできた血栓が脳に飛んで詰まる脳梗塞)、深部静脈血栓症・肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)など
- 代表的なお薬: ワーファリン、およびDOAC(ドアック)と呼ばれる新しいお薬(エリキュース/アピキサバン、リクシアナ/エドキサバン、イグザレルト/リバーロキサバン、プラザキサ/ダビガトラン)など
脳神経内科の視点:なぜ使い分けが重要なのか?
私たちが日々診療している「脳梗塞」という病気は、実は1種類ではありません。 動脈硬化が原因で脳の血管が細くなって詰まる脳梗塞には「抗血小板薬」が効きますが、心臓の不整脈(心房細動)が原因で大きな血栓が脳に飛んでくる脳梗塞には、抗血小板薬はあまり効果がなく「抗凝固薬」が必要になります。

「どちらも血液をサラサラにするから同じでしょ?」と思われるかもしれませんが、「どこで、どんな原因でできる血栓を防ぎたいか」によって、ターゲットにするメカニズムが全く異なるのです。合わないお薬を飲んでいても、予防効果が薄かったり、逆に出血しやすくなるリスクが高まってしまいます。
ご自身やご家族が「サラサラ薬」を飲んでいる場合は、お薬手帳を見て「これはどちらのお薬かな?」「自分はどの病気の予防で飲んでいるのかな?」と確認してみてください。もし疑問があれば、いつでも診察室でお気軽にお尋ねくださいね。
【参考文献・エビデンス】 当記事の医学的根拠は、以下の国内外のガイドライン等に基づいています。
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編. 『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』. 協和企画, 2023年. (https://www.jsts.gr.jp/guideline/)
- ※「アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞に対する抗血小板療法」および「非弁膜症性心房細動に伴う心原性脳塞栓症の予防(抗凝固療法)」の推奨度に基づく。
- 日本循環器学会 / 日本不整脈心電学会 合同ガイドライン. Ono K, et al. 『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』. 2020年.
- ※心房細動における血栓塞栓症予防のための抗凝固療法(DOACおよびワルファリンの適応)に関するエビデンスに基づく。




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