JSH2025改訂のポイント:なぜ「130/80」に統一されたのか?

1. 背景と基本方針:知識から行動へ

JSH2025のキャッチコピーは「行動するためのガイドライン」です。これまでは年齢や合併症によって目標値が細分化されており、臨床現場での混乱を招いていました。今回の改訂では、最新の臨床試験(SPRINT試験、STEP試験など)のエビデンスに基づき、「低ければ低いほど良い(The Lower, The Better)」という考え方が、より広い患者層に適応されました。

血圧分類の簡素化

従来の「高値血圧」などの呼称を整理し、より臨床的に分かりやすい分類へと変更されています。

  • 正常血圧: <120/80 mmHg
  • 高血圧: 140/90 mmHg(※診察室血圧基準)

2. 降圧目標値:原則「130/80 mmHg未満」

JSH2025の最も大きな変更点は、「75歳以上の高齢者」や「脳血管障害患者」も含め、原則として降圧目標を130/80 mmHg未満に統一したことです。

分類診察室血圧 (mmHg)家庭血圧 (mmHg)
原則(成人・高齢者含む)<130/80<125/75
75歳以上の高齢者(認容性による)<130/80 を目指す<125/75を目指す

3. 疾患・合併症別の管理ポイント

① 脳血管障害

  • 慢性期: 再発予防のために130/80 mmHg未満を目指します。
  • 根拠: 脳卒中既往者において、厳格な降圧が脳出血および脳梗塞の再発を優位に抑制することが再確認されました。
  • 注意点: 両側頸動脈狭窄や主幹脳動脈閉塞がある場合は、過降圧による虚血のリスクを考慮し、個別に設定します。

② 認知症

  • 予防的意義: 中年期からの高血圧管理が、将来のアルツハイマー型認知症および血管性認知症の発症リスクを低下させることが明記されました。
  • 目標: 認知機能低下の抑制を目的として、130/80 mmHg未満を維持することが強く推奨されます。

③ 慢性腎臓病(CKD)

  • 蛋白尿陽性: 130/80 mmHg未満を厳守。
  • 蛋白尿陰性: これまでよりも積極的な降圧が推奨される流れとなりました。

④ 糖尿病

  • 心血管イベントおよび微小血管障害(網膜症、腎症)の抑制のため、120/70 mmHg付近までの降圧も考慮される場合がありますが、基本は130/80 mmHg未満です。

⑤ 冠動脈疾患(CAD)

  • Jカーブ現象(下げすぎによる冠血流低下)に注意しつつも、基本は130/80 mmHg未満を目指します。

4. 治療戦略のアップデート

β遮断薬の「主要降圧薬」への復帰

近年の心不全や心房細動、頻脈合併例への有用性を再評価し、β遮断薬が再び第一選択薬(G1)のひとつとして位置づけられました。

  • G1群: RAS阻害薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬

デジタルヘルスの活用

スマートフォンアプリを用いた生活習慣修正(治療アプリ)が、降圧効果を持つ非薬物療法として推奨項目に含まれました。東部クリニックのようにITを活用する診療スタイルには非常に親和性が高い項目です。

5. まとめ:患者さんへのメッセージ

今回のガイドライン改訂は、「高齢だから少し高くても大丈夫」という考えから、「高齢だからこそ、元気に長生きするために130/80を目指そう」という前向きな姿勢への転換です。家庭血圧を主軸に据え、個々の生活スタイルに合わせた「無理のない、でも着実な降圧」が求められています。

追加セクション:【実践】家庭血圧の正しい測り方

ガイドラインで目標とされる「家庭血圧 125/75 mmHg未満」を正確に評価するためには、正しい手順での測定が不可欠です。自己流で測って「一喜一憂」しないためのポイントをまとめました。

1. 測定のタイミング(1日2回)

JSH2025でも、以下のタイミングでの測定が推奨されています。

  • 朝: 起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前
  • 晩: 寝る直前。入浴や飲酒の直後は血圧が変動するため、1時間以上空けてから、座って安静にした状態で測ります。

2. 正しい測定姿勢の「5つのルール」

姿勢が悪いと、実際の血圧より高く出てしまうことがあります。以下の「5つのルール」をチェックしましょう。

項目正しい方法注意点
場所背もたれのある椅子に深く座る椅子なし(床座り)は腹圧がかかり高く出やすい
腕の高さカフ(腕帯)を心臓の高さに合わせる低すぎると高く、高すぎると低く測定されます
足の状態両足を床につけ、足を組まない足を組むと血圧が上昇します
安静時間座ってから1〜2分安静にしてから測定バタバタ動いた直後は正確に測れません
環境静かで、適切な室温(寒すぎない)会話やテレビの音も避けましょう

3. 使用する血圧計の選び方

  • **上腕式(カフ式)**を強く推奨します。
  • 手首式は手軽ですが、測定部位の高さのズレによる誤差が出やすいため、ガイドラインでも基本は上腕での測定が推奨されています。

4. 「2回測ったらどっちを書く?」

1機会に2回測定した場合は、その平均値を記録します。1回目だけが高く出ることも多いため、2回測って落ち着いた数値を把握することが大切です。


参考文献(エビデンス・ソース)

  1. 日本高血圧学会. 『高血圧管理・治療ガイドライン2025』. ライフサイエンス出版, 2025.
  2. SPRINT Research Group, et al. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015;373(22):2103-16. PMID: 26551272
  3. Zhang W, et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension (STEP). N Engl J Med. 2021;385(14):1268-79. PMID: 34459567
  4. Ohya Y, et al. Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension 2025. Hypertens Res. 2025. [DOI: 10.1038/s41440-025-02478-4]

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